取消訴訟を起こしても、争う相手の行為が「処分」に当たらなければ、中身の審理に入る前に訴えは却下されてしまう。この「処分に当たるかどうか」を処分性と呼ぶ。行政事件訴訟法のなかでも判例の数が多く、肢別問題集では結論だけを問う形で何度も出てくる論点である。
吉川は合格革命のテキストと肢別問題集で行政法を4周目まで進めているが、処分性では最高裁が示した定義の言い回しをまだ自分の言葉で整理できていない。そこで、e-Gov法令検索で行政事件訴訟法3条2項を、裁判所ウェブサイトで最高裁判決5件の原文を確認し、定義の言葉ごとに判例を並べ直してみた。法律の勉強はこの試験が初めてで、まだ合格していない受験生の整理として読んでもらえればと思う。
先に結論
- 処分性とは、ある行為が行政事件訴訟法3条2項の「処分」に当たるかどうかという性質で、これが否定されると取消訴訟は却下される
- 判断の出発点は最判昭和39年10月29日の定義で、「公権力性」「外部性」「直接性」「法的効果」の4つの要素に分けて読める(要素への分け方は学習上の整理)
- 計画・行政指導・条例は原則として処分に当たらないが、特定の者の法的地位に直接の影響が出るうえ、その段階で争わせる必要があるときに、例外的に処分性が認められている
処分性とは、取消訴訟の入口で問われる要件である
処分性とは、ある行為が行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たるかどうかという性質である。これを欠く行為を対象にした取消訴訟は、違法かどうかを判断されることなく却下される。
行政事件訴訟法 第3条第1項・第2項
この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
条文には「処分性」という言葉は出てこない。3条2項は該当する行為をまとめて「処分」と呼んでいるだけで、何がそこに含まれるかの基準までは書いていないのである。その基準を事件ごとに示してきたのが最高裁判例なので、処分性は判例の結論と理由をセットで押さえる論点になっている。
最高裁の定義は、4つの言葉に分けると読める
処分性の判断基準としてまず押さえる定義は、最判昭和39年10月29日(民集18巻8号1809頁)が示したものである。東京都のごみ焼却場の設置をめぐる事件で、判決理由には次のように書かれている。
最判昭和39年10月29日(判決理由から抜粋)
行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであることは、(以下略)
判決が直接扱っているのは旧法である行政事件訴訟特例法1条の「処分」だが、いまの3条2項を考えるときも、この一文が処分性の出発点として使われている。ただ一文のままでは長くて頭に残りにくいので、ここでは定義のどの言葉が何を求めているかで4つに切り分けた。それぞれの要素が欠けたときに、どの判例で処分性が否定されたかも対応させておく。
| 要素 | 定義のどの言葉か | 欠けるとどうなるか(例) |
|---|---|---|
| 公権力性 | 「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為」 | 対等な立場で結ぶ私法上の契約による行為は外れる(昭和39年判決) |
| 外部性 | 「国民の」権利義務 | 行政内部の手続にとどまる行為は外れる(同判決の計画案の議会提出) |
| 直接性 | 「直接」 | 不特定多数への一般的・抽象的な効果しかない行為は外れる(昭和57年判決) |
| 法的効果 | 「権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている」 | 事実上の効果しかない行政指導は原則として外れる(ただし平成17年判決は例外) |
4つの要素への分け方は判決自身が示したものではなく、教科書などで広く使われている学習上の整理である。なお、同じ判決の裁判要旨は別の角度からもこの考え方を述べている。違法であっても、取り消されるか無効が確認されるまでは有効なものとして扱われる行為でなければ、公権力の行使に当たる行為とはいえない、という言い方である。
判例5つを「あり・なし」で並べる
処分性が否定された2件と肯定された3件の最高裁判決を並べると、理由はそれぞれ2つずつに集まっている。否定の理由は「契約や内部の手続にとどまる」と「効果が一般的・抽象的」で、肯定の理由は「特定の者の法的地位に直接響く」と「後の段階で争うのでは救済が間に合わない」である。
| 判決 | 対象となった行為 | 処分性 | 決め手 |
|---|---|---|---|
| 最判昭和39年10月29日 | ごみ焼却場の設置 | なし | 私法上の契約による設置で、計画案の議会提出は内部的な手続行為 |
| 最判昭和57年4月22日 | 工業地域の指定(用途地域) | なし | 効果は地域内の不特定多数に対する一般的・抽象的なもの |
| 最大判平成20年9月10日 | 土地区画整理事業の事業計画の決定 | あり | 換地処分を受けるべき地位に立たされ、後で争うと事情判決の可能性がある |
| 最判平成17年7月15日 | 病院開設中止の勧告 | あり | 従わないと相当程度の確実さで保険医療機関の指定を受けられなくなる |
| 最判平成21年11月26日 | 保育所を廃止する条例の制定 | あり | 他の処分を待たずに、限られた特定の者の法的地位を直接奪う |
ごみ焼却場の設置(昭和39年)は、契約と内部手続なので処分ではない
東京都がごみ焼却場を設置した行為について、判決は、焼却場が「私人から買収した都所有の土地の上に、私人との間に対等の立場に立つて締結した私法上の契約により設置されたもの」だと指摘した。都が設置を計画して都議会に計画案を提出した行為も、「被上告人都自身の内部的手続行為に止まる」とされている。定義の言葉でいえば公権力性と外部性がどちらも欠けているので、設置行為は処分に当たらないという結論になる。
工業地域の指定(昭和57年)は、効果が一般的・抽象的なので処分ではない
都市計画法8条1項1号に基づく工業地域の指定は、地域内の建築に制限をかける。最判昭和57年4月22日(民集36巻4号705頁)はその効果を、新たに同じ制約を課する法令が制定された場合と同様のものだとして、「当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず」と評価した。そのうえで、建築しようとする者には、建築の実現を阻止する行政庁の具体的処分をとらえて指定の違法を主張し、その処分の取消しを求める道が残されている、とも述べている。
ここでは直接性が欠けることに加えて、後の段階で争う手段が残っていることも理由になっている。この2つ目の理由が、次に見る土地区画整理事業の判決と結論を分ける場所になる。
土地区画整理事業の事業計画(平成20年)は、判例変更で処分になった
最大判平成20年9月10日(民集62巻8号2029頁)は、市町村が施行する土地区画整理事業の事業計画の決定を扱った。施行地区内の宅地所有者等は、決定によって「換地処分を受けるべき地位に立たされる」うえ、建築行為等の制限も法的強制力を伴って続く。そのため判決は、「その法的地位に直接的な影響が生ずる」と判断した。
判決は救済の観点も理由に加えている。換地処分の段階まで待ってから争うと、工事が進んでいるため、事業計画の違法を理由に取り消せば事業全体が混乱しかねない。事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるので、事業計画の決定の段階で取消訴訟を認めることに合理性がある、という筋道である。この判決によって、事業計画には処分性がないとしていた最大判昭和41年2月23日(民集20巻2号271頁、いわゆる青写真判決)は変更された。
同じ「計画」でも、工業地域の指定は不特定多数に向けた一般的な規制で、後から具体的な処分を争えば足りるとされた。これに対して事業計画の決定は、特定の宅地所有者を換地処分へ進む手続に乗せてしまい、後から争っても事情判決で救済されないおそれがあるので、扱いが分かれている。
病院開設中止の勧告(平成17年)は、行政指導でも処分になった
平成9年改正前の医療法30条の7に基づく病院開設中止の勧告は、法律上は相手方が任意に従うことを期待する行政指導として定められている。それでも最判平成17年7月15日(民集59巻6号1661頁)は、勧告に従わなければ「相当程度の確実さをもって,病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす」と指摘した。国民皆保険の下では、指定を受けられないと「実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる」。判決はこの2点を併せ考えて、勧告は3条2項の処分に当たるとした。
判決は、後で保険医療機関の指定拒否処分を抗告訴訟で争えるとしても、この結論は左右されないとも述べている。「後で争える」ことが処分性を否定する理由の一つになった工業地域指定の判決とは、この点で反対の方向を向いている。
保育所を廃止する条例(平成21年)は、立法でも処分になった
最判平成21年11月26日(民集63巻9号2124頁)は、横浜市が特定の市立保育所を廃止する条例を制定した事件である。判決はまず「条例の制定は,普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでない」という原則を確認した。そのうえで、この条例は「他に行政庁の処分を待つことなく,その施行により各保育所廃止の効果を発生させ」るものだとした。入所中の児童と保護者という限られた特定の者らから、その保育所で保育を受けることを期待しうる法的地位を直接奪うので、行政庁の処分と実質的に同視できるという判断である。
判決はさらに救済面の理由も加えていて、処分の取消判決や執行停止の決定には第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められているので、取消訴訟で条例制定行為の適法性を争えるとすることには合理性があるとした。ただしこの事件では、上告人らの保育の実施期間がすべて満了していたため訴えの利益が失われたとされ、処分性は認められながらも上告は棄却されている。
「原則なし」の行為に処分性が認められるときの2つの理由
計画・行政指導・条例は、いずれも原則として処分に当たらない行為の類型である。それでも処分性を肯定した平成17年・平成20年・平成21年の3判決は、どれも「特定の者の法的地位への直接の影響」と「その段階で取消訴訟によって争わせる必要性や合理性」を組み合わせて結論を出している。
| 行為の類型 | 肯定した判決 | 法的地位への直接の影響 | その段階で争わせる理由 |
|---|---|---|---|
| 計画 | 平成20年(事業計画の決定) | 換地処分を受けるべき地位に立たされ、建築行為等も制限される | 換地処分の段階では事情判決がされる可能性が相当程度ある |
| 行政指導 | 平成17年(病院開設中止の勧告) | 保険医療機関の指定を受けられず、開設の断念に追い込まれる | 後で指定拒否処分を争えても結論は左右されない |
| 条例 | 平成21年(保育所廃止条例) | 入所中の児童と保護者の法的地位を直接奪う | 第三者効のある取消訴訟で争わせることに合理性がある |
この記事では、まず行為の類型(契約、内部の手続、計画、行政指導、条例など)から原則を置いて5件を見た。そのうえで「特定の者の法的地位に直接響くか」と「後の段階で争わせて救済が間に合うか」の2点を確認すると、否定された昭和39年・昭和57年の2件も、肯定された3件も、同じ物差しで結論の理由を説明できる。
確認
設問1
法律上、相手方が任意に従うことを期待する行政指導として定められている勧告は、それに従わなかった場合にどのような結果が生じるかにかかわらず、取消訴訟の対象となる処分に当たることはない。
答え誤り。最判平成17年7月15日は、病院開設中止の勧告について、従わなければ相当程度の確実さで保険医療機関の指定を受けられなくなる結果をもたらすことなどを理由に、処分に当たるとした。
※本試験問題をそのまま掲載することはせず、論点を再構成した独自の設問にしています。
設問2
都市計画法に基づく工業地域の指定は、地域内の建築に制限を課すものであるから、その地域内に土地を所有する者は、指定そのものを対象として取消訴訟を提起することができる。
答え誤り。最判昭和57年4月22日は、指定の効果は地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なものにすぎないとして、抗告訴訟の対象にならないとした。建築の実現を阻止する具体的処分を争う中で、指定の違法を主張する道が残されているとしている。
設問3
条例の制定は議会が行う立法作用に属するので、特定の保育所を廃止する条例であっても、その制定行為が抗告訴訟の対象となる処分に当たる余地はない。
答え誤り。最判平成21年11月26日は、条例の制定は一般的には処分に当たらないとしつつ、他の処分を待たずに廃止の効果を生じさせ、限られた特定の者の法的地位を直接奪う本件の条例制定行為は処分に当たるとした。
この論点での、吉川の現在地
合格革命の肢別問題集では、行政法が9月14日に4周目に入った。10月12日に処分性のどこで止まっているかを本人に確認したところ、つまずいているのは昭和39年判決の定義の言い回しで、公権力性・直接性といった要素がまだ整理できていない、という答えだった。
この記事で定義を4つの言葉に切り分け、それぞれが欠けた判例を表で対応させたのは、その答えを受けたものである。この整理で判例の結論を迷わず引けるようになったかどうかは、4周目で処分性の問題に当たったときの正誤で確かめていくことになる。
まとめ
処分性とは、ある行為が行政事件訴訟法3条2項の「処分」に当たるかどうかという性質で、欠ければ取消訴訟は却下される。判断の出発点は最判昭和39年10月29日の定義である。公権力性・外部性・直接性・法的効果の4つに分けると、ごみ焼却場の設置(契約と内部手続)や工業地域の指定(一般的・抽象的な効果)で処分性が否定された理由が説明できる。
計画・行政指導・条例は原則として処分に当たらないが、例外として処分性が認められた判決もある。土地区画整理事業の事業計画(平成20年)、病院開設中止の勧告(平成17年)、保育所廃止条例(平成21年)では、特定の者の法的地位への直接の影響と、その段階で争わせる必要性の2つが理由になった。肢別で結論を問われたときは、行為の類型で原則を置いてから、この2点が当てはまるかを見ると判断の筋が通りやすい。
取消訴訟まわりの論点は審査請求と取消訴訟、どちらを先にやるのかや義務付け訴訟と差止め訴訟は何が違うのかでも扱っている。行政法が得点計画のどこに位置づくかは180点をどこで取るか、科目の学習順は独学ロードマップに書いた。
ご確認ください
本記事は2026年10月時点の学習記録で、行政書士試験の受験生が執筆したものです。有資格者による監修は受けていません。引用した条文はe-Gov法令検索で、判決は裁判所ウェブサイトの全文で2026年10月に確認していますが、読みやすさのため一部を抜粋・要約しています。正確な文言は必ず原文をご確認ください。掲載した設問は論点を再構成した独自のもので、本試験の出題を示すものではありません。試験の出題範囲・配点・実施要領は変更されることがあるため、受験にあたっては必ず一般財団法人行政書士試験研究センターの当年度の公式発表をご確認ください。本サイトは学習の補助を目的としており、個別の法律相談には応じられません。
