行政事件訴訟法には、取消訴訟のほかに義務付け訴訟と差止め訴訟という2つの訴訟類型がある。名前だけ見ると似た響きだが、求めているものは正反対で、それぞれの中にもさらに枝分かれがある。
ここは、条文を並べて対称形で覚えると整理がつく場所だった。2つを分ける線がどこにあるのか、義務付け訴訟の中の枝分かれがどこで生まれるのかを、条文の順に押さえていく。
先に結論
- 義務付け訴訟(3条6項)は「させる」訴え、差止め訴訟(3条7項)は「させない」訴え。方向が逆
- 義務付け訴訟には非申請型(1号)と申請型(2号)があり、申請型はさらに不作為型と拒否処分型に分かれる
- 非申請型の義務付け訴訟と差止め訴訟は、要件の形がほぼ同じ(重大な損害+補充性+原告適格)
- 申請型の義務付け訴訟だけは単独で提起できず、不作為の違法確認の訴え、または取消訴訟・無効等確認の訴えを併合しなければならない(37条の3第3項)
私はまだ2026年度の受験生で、合格していない。法律の勉強はこの試験が初めてで、この論点も一度読んだだけでは区別がつかなかった。条文はe-Gov法令検索で現物を確認している。記事中の学習記録は吉川自身のものである。
義務付け訴訟と差止め訴訟は、正反対の関係にある
義務付け訴訟は行政庁に処分をさせる訴え、差止め訴訟は行政庁に処分をさせない訴えで、この2つはどちらも平成16年(2004年)の行政事件訴訟法改正で新たに法定された(平成17年4月1日施行)。それまでは取消訴訟が抗告訴訟の中心で、まだされていない処分や、すべきなのにされていない処分を正面から扱う訴訟類型が条文上なかった。
行政事件訴訟法 第3条第6項(義務付けの訴え)
この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
行政事件訴訟法 第3条第7項(差止めの訴え)
この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
6項は「すべき処分がされない」、7項は「すべきでない処分がされようとしている」。主語も動詞もほぼ対応していて、違うのは処分の方向だけである。ここが2つの訴訟の一番外側の線になる。
義務付け訴訟には、さらに2つの入り口がある
差止め訴訟には枝分かれがないが、義務付け訴訟には3条6項の1号・2号というかたちで、もう一段の分岐がある。この分岐は「自分が申請したかどうか」で分かれる。
非申請型(1号)は、申請という手続を経ない
1号は、申請の有無に関係なく「行政庁が一定の処分をすべきなのにしていない」場面である。典型は、違法建築物への是正命令のように、行政庁が誰か(多くは第三者)に対して規制権限を発動すべきだ、と求めるケースで、原告自身は何も申請していない。だから「非申請型」あるいは「直接型」と呼ばれる。
申請型(2号)は「不作為型」と「拒否処分型」に分かれる
2号は、自分が法令に基づいて申請または審査請求をしたのに、すべき処分がされていない場面である。ここは37条の3第1項がさらに2パターンに割っている。
行政事件訴訟法 第37条の3第1項
第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。
一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
二 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。
一号は何の応答もない「不作為型」、二号は却下・棄却の処分をされた「拒否処分型」である。そしてこの区別は、あとで見る「併合提起」の要件と直結している。
| 非申請型(1号) | 申請型・不作為型(2号) | 申請型・拒否処分型(2号) | |
|---|---|---|---|
| 典型場面 | 申請なしに規制発動を求める | 申請したのに応答がない | 申請したら却下・棄却された |
| 自分は申請したか | していない | している | している |
| 根拠 | 3条6項1号 | 3条6項2号・37条の3①一 | 3条6項2号・37条の3①二 |
訴訟要件を並べて比べる
非申請型義務付け訴訟(37条の2)と差止め訴訟(37条の4)は、条文の作り自体がほぼ対称になっている。
行政事件訴訟法 第37条の2第1項・第3項(非申請型義務付け訴訟)
第三条第六項第一号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。
第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
行政事件訴訟法 第37条の4第1項・第3項(差止め訴訟)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
「重大な損害を生ずるおそれ」「補充性(他に適当な方法がないこと)」「法律上の利益を有する者に限る原告適格」という3点セットが、どちらにも同じ形で入っている。原告適格の判断は、どちらも9条2項を準用する(37条の2第4項・37条の4第4項)。本案勝訴要件も対応していて、37条の2第5項は「処分をすべきことが法令上明らか、又は裁量権の逸脱・濫用」、37条の4第5項は「処分をすべきでないことが法令上明らか、又は裁量権の逸脱・濫用」と、向きだけが逆になっている。
これに対して申請型義務付け訴訟(37条の3)だけは、もう1つ要件が増える。不作為型なら不作為の違法確認の訴え、拒否処分型なら取消訴訟又は無効等確認の訴えを、必ず併合提起しなければならない(37条の3第3項)。
行政事件訴訟法 第37条の3第3項
一 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え
二 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え
単独で起こせる非申請型・差止めに対して、申請型だけ2本立てになるのは、「応答がない・拒否された」ことの違法性を確定させる訴えと、「処分をさせる」という義務付けの訴えが、法律上は別のものだからである。前者だけでは行政に何かをさせる力はなく、義務付け訴訟がそこに上乗せされる関係になっている。
| 非申請型義務付け(37条の2) | 申請型義務付け(37条の3) | 差止め(37条の4) | |
|---|---|---|---|
| 入口の要件 | 重大な損害+補充性 | 不作為 又は 拒否処分の違法・無効 | 重大な損害+補充性 |
| 原告適格 | 法律上の利益を有する者(9条2項準用) | 申請・審査請求をした本人 | 法律上の利益を有する者(9条2項準用) |
| 併合提起 | 不要。単独で提起できる | 必要(不作為の違法確認、又は取消・無効等確認) | 不要。単独で提起できる |
確認
設問1
申請型義務付け訴訟は、非申請型義務付け訴訟や差止め訴訟と同じく、単独で提起することができる。
答え誤り。申請型義務付け訴訟は、不作為の違法確認の訴え、又は取消訴訟・無効等確認の訴えを併合提起しなければならない(37条の3第3項)。
※本試験問題をそのまま掲載することはせず、論点を再構成した独自の設問にしています。
設問2
法令に基づく申請をしたところ却下処分を受けた者が、その処分をさせるための義務付け訴訟を起こす場合、併合すべきは不作為の違法確認の訴えである。
答え誤り。却下・棄却の処分を受けた場合(拒否処分型)は、取消訴訟又は無効等確認の訴えを併合する(37条の3第1項2号・第3項2号)。不作為の違法確認の訴えを併合するのは、何の処分もされない不作為型のときである。
設問3
差止めの訴えは、一定の処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあれば、他に適当な方法があるかどうかにかかわらず提起することができる。
答え誤り。37条の4第1項ただし書は「その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない」と定めており、補充性が要件になっている。
この論点での、吉川の現在地
8月28日にテキストで行政事件訴訟法を通読したとき、抗告訴訟の準用関係は手厚めに読んだつもりだったが、義務付け訴訟と差止め訴訟の区別までは頭に残っていなかった。8月31日に肢別問題集を進めていて差止め訴訟の問題に当たったとき、義務付け訴訟と何が違うのか、非申請型と申請型のどちらの話をしているのかがすぐに出てこず、そこで一度止まった。
条文を並べて対称形で読み直したのが、この記事の元になっている。3条6項と3条7項を並べて「させる/させない」で切り分け、37条の2と37条の4を並べて要件の形が同じだと確認し、そのうえで37条の3だけが併合提起という別枠を持っている、という順番で見ると、バラバラだった条文が1本の線でつながった。
まとめ
義務付け訴訟(3条6項)は「させる」訴え、差止め訴訟(3条7項)は「させない」訴えで、方向が逆になっている。義務付け訴訟にはさらに非申請型(1号)と申請型(2号)があり、申請型は不作為型と拒否処分型に分かれる。
要件の骨格は、非申請型義務付け訴訟と差止め訴訟がほぼ同じ形(重大な損害+補充性+原告適格)を持っている。申請型だけは、不作為の違法確認の訴え、又は取消訴訟・無効等確認の訴えを必ず併合提起しなければならない。この違いを条文番号とセットで押さえておくと、事例問題でどちらの訴訟類型を選ぶかで迷いにくくなる。
行政事件訴訟法の周辺は審査請求と取消訴訟、どちらを先にやるのかにも書いた。行政法全体の位置づけは180点をどこで取るか、学習順は独学ロードマップにまとめている。
ご確認ください
本記事は2026年8月時点の学習記録で、行政書士試験の受験生が執筆したものです。有資格者による監修は受けていません。引用した条文はe-Gov法令検索で2026年8月に確認していますが、読みやすさのため一部を抜粋しています。正確な文言と各号の内容は必ず原文をご確認ください。掲載した設問は論点を再構成した独自のもので、本試験の出題を示すものではありません。試験の出題範囲・配点・実施要領は変更されることがあるため、受験にあたっては必ず一般財団法人行政書士試験研究センターの当年度の公式発表をご確認ください。本サイトは学習の補助を目的としており、個別の法律相談には応じられません。